第7章

9/19

143人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
 魔力と言うものは、肉体にもだが精神により大きな影響を与える。成長と共に培った魔力は、心身に均衡と安定を与える。しかし、何らかの事態で有している魔力が異常をきたすと、均衡が崩れてしまい精神が不安定になってしまう。軽症の場合は感情の起伏が激しくなったりと言った、情緒の不安定さが出る程度だが、最悪の場合は長期にわたる昏睡、または自我が崩壊してしまう事がある。  極度に魔力を減少させたアウジードは、この問題に関し特に注意が必要だった。ラズは最も身近に居る者として、些細な変化も見落とさず、さらに不安を煽るなどの精神的に負荷を与える事がないようにと忠告されていた。  ラズはそれを心に留め置き、注意して暮らしていたつもりだった。それなのに、アウジードは今まさに普段なら絶対に出す事のない不安や弱音を表に出してしまっている。  その弱々しい姿に驚愕したラズだったが、彼の口ぶりから切っ掛けを作ってしまったのが自分の態度だと気づき、自身の軽率さに落胆した。  おそらく、ラズが数日前から見せていた砂漠を見つめるという何気ない行動が、今のアウジードの精神状態ではラズが此処から離れていくイメージに重なり、少しずつ心への負担になっていたのだろう。それが今日になって、行動の要因が自分が手放した魔力の匂いを感じてのものだと知り、生じていた不安が肥大し、抑えきれなくなった、という所だろう。  ラズは自身の迂闊な言動を悔やみ唇を噛み締め、彼に掛けるべき言葉を探した。 「……そんなこと言うなよ。そりゃ、最初はアウジードの魔力が目的だった。けど、今はそんなこと関係ないんだ。俺はアウジードの傍に居たいから、居るんだ……」  アウジードの青い瞳は未だ不安の色に満ちている。こんな取り繕っただけの言葉じゃ、決して心には届かない。……このままでは、要らぬ不安に溺れ、アウジードの心は壊れてしまうかもしれない。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加