第7章

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 ――それだけは嫌だっ!!  ラズは衝動的な強い感情の突き動かされ、一度逃げてしまった青い瞳に琥珀色の双眼を向けた。心をぶつけるようにじっと力強く見つめ、その勢いまま二人の間に出来た距離を埋めるように顔を寄せていった。  それは、一瞬の交わりだった。  重なりあった唇は、互いの温もりを感じる間もなく離れ、残るは僅かな感触のみ。それでも遠ざかってしまいそうだった心を繋ぎ止める事は出来たのか、ラズの瞳が捉える青は先程とは異なった色を見せていた。 「俺の態度がお前を不安にさせたんだったら謝る。けど、そんな風に不安にならなくてもいいんだ。俺はお前の傍から離れていかない。魔力とか関係ない。ここが俺の居場所なんだ。アウジードがくれた大切な場所なんだよ。……それに、アウジードの隣じゃないと、俺は安心して眠れないから。だから……って、アウジード?」  想いを真剣に伝えていたのだが、それはしだいに尻窄みになり、ついには完全に言葉が途切れてしまう。なぜなら、目の前に居るアウジードに異変を感じてしまったからだ。  確かにアウジードの目からは不安の色は消えていた。だが、代わりに現れてきたのは、茫然とした様子で一点を見つめ、口も何かを言いかけたみたいに半開きの状態という、これもまた普段ではなかなかお目にかかる事のない気の抜けたような表情だった。 「……アウジード?」  様子を伺うように、そっと声を掛ける。すると、茫然としたままのアウジードは、何を言うでもなく静かに口許に手を運び、指先で自分の唇に触れた。 「……すまない。少し驚いてしまって」  ようやく発せられた言葉の意味が分からず、ラズは首を傾げる。そんなラズの目の前で、アウジードは普段興味深いものを前にした際に見せる不敵な笑みを浮かべた。
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