第7章

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「ラズからは初めてだと思ってな」 「……? ……――あっ!」  何の事やらと、傾げた首がさらに傾いていたが、いっときの間をおき意味に気づいた。ラズは見る間に顔を赤らめ、挙動不審になっていった。口はあわあわと声にならない声を発するばかり、同じようにあわあわと動く指先は寝台のシーツを引き裂かんばかりに引っ掻いている。最も動揺が見てとれるのが銀色の尻尾で、背後で別の獣が暴れているのではと思うほど激しく跳ねていた。  威勢の良い反論が出来なくなるほどの慌てっぷりだが、そんな状態であっても胸の奥には小さな喜びが生まれていた。いつもの笑顔が見れた嬉しさを伝えたい。けど、何故か素直に表に出すのは恥ずかしく、ついそっぽを向いてしまうのだった。  聞こえてくるのは尻尾が寝台を叩く音だけ。そっぽを向いてしまった事で照れ臭さは加速してしまい、気まずさを覚え始めたラズは完全に閉口してしまう。  会話が途切れ、聞こえていた寝台を叩く音もしだいに勢いが消え始める。程なくして室内は静寂に包まれてしまうが、ふいにギシリと寝台が軋む音が響いた。 「……ラズ。ありがとう」  音をたて近づいてきた温もりが、低い声で囁いてくる。 「私がラズの安らぎになり、傍に居る事を大切に思ってくれていると知れて、とても嬉しく思う」  そう言うと、アウジードはラズの身体を優しく抱き寄せた。自分の想いを出せず、照れ隠しでそっぽを向いていたラズだったが、不思議とこれには抗う事なく身を委ねていった。 「私も、こうやってラズの温もりを感じていると、とても落ち着く」  穏やかに囁きかけてきた唇が、ラズの唇に重なっていく。  互いの想いを伝え合う為の行為だと、アウジードから教えられた口づけ。数ヵ月前まで知る事のなかったこの行為は、何度も交わされた今でもラズの思考を簡単に蕩けさせていく。 身体もこの先に続く行為に期待し、ジワリと熱を持ち始め、力なく崩れ落ちていってしまう。
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