第7章

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「何故、涙を流す。……言っただろう、お前がこの傷を気に病む必要などないと」  頬を濡らす涙は添えられた指によって拭われていくが、琥珀色の瞳から溢れる雫は止まる事を知らず、頬だけでなくアウジードの指先まで濡らしていく。この尋常ではない様子に不安を覚えたのか、アウジードは表情を曇らせ手を離していった。 「――っ! 違うッ、そうじゃないっ!」  離れていく手を咄嗟に掴み、ラズが首を大きく横に振る。 「違うんだ。……たしかに、アウジードの傷のことはすごく苦しくて、自分の弱さを責めたくなる。けど、……けど、それだけじゃない。それとは違う気持ちで……胸が熱くて苦しいんだ」  ラズはアウジードの手を両手で覆い、グッと力を込める。 「俺……、アウジードにいろんな物を貰って、命まで助けられた。それだけでも十分すぎるほど恩があるのに、こうやってアウジードと一緒にいられる幸せまで貰ってる。俺、毎日がすごく楽しくて幸せだ。こんなに幸せな気持ち、今まで知らなかった。……俺、アウジードに逢えて、本当に良かった」 「ラズ……」  温もりに包まれていない片方の手が、ラズの頬に優しく添えられる。 「私も幸せだ。こんなにも誰かを愛おしく想える喜びを知る事ができたから……」  その言葉に再び涙が溢れてしまいそうになるのを堪え、ラズは顔を綻ばせる。 「アウジード。俺、アウジードのことが大好きだ」  彼から離れたくない、ずっと一緒に居たい。これらの気持ちが、自分の孤独を埋めるためだけに存在しているのではないと理解していた。だが、初めての感情に妙な照れくささを覚えていたラズは、今まで「好き」と言う気持ちを言葉に出す事ができずにいた。けれども、アウジードに対する様々な気持ちが溢れ出た今、ようやく秘めていた想いを言葉にして伝える事ができた。
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