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父島の中ほど、東海岸の初寝浦は、初日の出を拝む名所として知られている。根(ね)室(むろ)ほど東ではないが、一般人が渡れる所としては、日本で最も早く夜が明ける。実際にはレアアースで注目される、絶海の孤島南鳥島があるが、自衛隊員や気象庁の職員を除く渡航は制限されている。
初寝浦はまた、戦時中に海軍の施設があった所である。米軍は一時、小笠原上陸を計画していたそうで、父島の沖にも軍艦が列をなしていたという。ところが、父島には大きな飛行場もないし、戦車で上陸することもできない。そこで海軍の飛行場が三つもあった硫黄島が攻撃された。硫黄島の日本軍が玉砕した後、日本側の余りの抵抗の強さに、父島への上陸は見合わされた。
日本軍は当初、初寝浦から大砲を撃っていたが、米軍機には届かない。というのも、明治時代の物を使っていたからである。日本軍が一発撃つと、百発撃ち返してくる。機銃掃射の痕(あと)がコンクリートの施設に残っていた。これではいけないということで、日本軍は米軍上陸に備えることになった。父島の道路も崖上の壕も、日本軍が整備したものである。
最後に寄ったのは、初寝浦から島を横断した、東海岸を見下ろす亜熱帯農業センターである。ここには、小笠原のほか、南米やオーストラリアなどの植物が集められている。タコノキは堅い実を鉈で割らなければならない。その際に、指も一緒に切断してしまった人がいる。中には落(らつ)花(か)生(せい)に似た実が入っている。なかなかおいしい物で、お酒に漬けたりもする。
タコノキの実を目当てに、オカヤドカリが標高二百メートルの辺りまで登ってくる。また、この亜熱帯農業センターの周りには、オガサワラオオコウモリが住み着いている。本土などの洞窟で生息するものとは異なり、昼間は枝からぶら下がって、日向ぼっこしている。マンゴーやバナナが大好物だということ。寒い日などは、数匹が塊となってぶら下がる。仕草は子猿のようで、意外とかわいいものであるが、果実の汁を吸うために、売り物を台無しにしてしまう。天然記念物であるので、このコウモリを捕って食べることはできないが、マリアナ諸島などでは、高価な珍味として扱われているらしい。
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