第1章

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君のまだ見ぬOGASAWARA    高野敦志 目次  小笠原へ、いざ出発!  小笠原のジャングル  シーカヤックに乗る  ドルフィン・スィムに挑戦  マイクロバスで島内巡り  楽園との別れ  リュック・ベッソン の『グラン・ブルー』  あとがき  小笠原へ、いざ出発!  初めて小笠原へ旅立った時のこと。午前中に東京の竹芝桟(さん)橋(ばし)を出た船は、房総の山々を左手に見送り、伊豆大島の沖を航行していった。真夏のまばゆい日射(ひざ)しによって、藍色の海に立つさざ波が銀色にきらめいている。円い水平線の彼方に見えるのは、水球を包み込む白い光ばかり……。甲(かん)板(ぱん)に立つ僕が探し求めているのは、島影や船体でなくても、せめて海鳥が飛ぶ姿だった。入道雲を頂く三原山が消えてから、凪(な)いだ外海はけだるさすら感じさせた。船の速度は23.4ノット、自動車でゆっくり走るぐらいなのだから。  航海はまだ一日近く続く。望遠鏡を目に当てると、水面すれすれのところを、カモメが飛んでいるではないか! 数羽で群れており、しばらく空中を進んでいくと、疲れて着水するのだが、遅れまいとして飛び立つ。そのさまがまるで、海中から噴き出してくるかのようなのだ。  ずっと立ち通しだったせいで、足が少し重くなってきた。2等船室に戻って、客の間でごろりとなる。凪いでいるせいで、固い床が揺りかごみたいに感じられる。うとうとしたところで、ふたたび甲板に出てみると、空はかなり雲が広がっていた。 「雨ですね」  傍らにいたおじさんが言った。一瞬、耳を疑ったのだが、先ほどまでの晴れ間は消えて、たちまち本降りの雨となった。船室に逃げ込むと、開け放たれたドアを通して、灰色となった後方の水平線に、シャワーが降り注ぐ境界を認めた。外側はすでに晴れており、遮るもののない海では、気象は前触れもなく変わるらしい。  船が八丈島の沖を通過したのは、すでに西の空が燃える時刻だった。いったん焼けた空は透き通り、夕闇がゆっくり忍び寄ってきた。このまま眺め続けていても、前方には夜の海しか待っていない。無為のまま潮風を浴びながら、僕は過去の歴史へと思いを馳せていた。
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