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ビジターセンターで島の自然や歴史ついて、展示品を眺めていた。間もなく一時半になろうとしていた。ジャングルフィールドのツアーの車が迎えに来た。長身の青年がガイドで、他に女性客が三名ほどいた。目指すのは初(はつ)寝(ね)浦(うら)展望台である。
火山活動で生まれた父島は、起伏がかなり激しく、見上げるばかりの急坂を、エンジンの馬力を上げて登っていく。途中で境(さかい)浦(うら)を通過したが、アメリカ軍の攻撃で座礁した船が、甲板を残して海中に沈んでいた。
車を坂の途中で止めると、けもの道のような草ぼうぼうの隘(あい)路(ろ)を進んでいく。小笠原特有の動植物が見られる。島の植物のうち、四割が固有種である。
ホナガソウは蕾(つぼみ)が紫色の花を、順々にエレベーターみたいに咲かせていく。マルハチという木は、うろこ状の幹に○と漢字の八を逆さにした模様がついている。一枚の葉が両腕を伸ばした長さのシダで、人の背丈以上の高さを誇る。本土では草である植物が、「東洋のガラパゴス」では樹木として進化していた。タコノキは根がタコ足状に広がっている。アダンに似た実をつけ、固い実を割ると、中にナッツのようなものが入っていて、甘酸っぱい味がするのだそうだ。
途中の谷川で一休み。マルハチの下の流れには、小笠原固有の小さなアメンボと川エビがいた。ムニンノボタンは最後の一株が折られたので、バイオテクノロジーで複製されたクローンの株が、数本植えられていた。
海が見えてきた。二見港の反対の東側に出たのである。そこには乾性の低木が生えている。シマムロは別名香木とも呼ばれ、ヒノキに似た香りを、折れた枝から発している。
初寝山の頂上まで来た。左方の崖下が初寝浦の砂浜で、正面の下が石浦である。沖にはサーフィンの若者が集まっていたが、波が穏やかすぎて、さざ波と戯れているといった感じである。本土で見られるスズメもカラスも、ここではほとんど見かけない。潮(しお)騒(さい)のほかには何も聞こえない。海上に浮かぶ小島が東島、左方に延びているのが兄島の家(か)内(ない)見(み)崎(さき)である。その間が兄島瀬戸で、幅は八百メートルしかないが、流れはかなり速いらしい。
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