吉岡渉

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 一学年上の先輩が、昼休みにわざわざ教室に現れ、俺の机のそばにちょこんと腰を落とし、上目遣いで訊いてきた。開いた胸元から胸の谷間が見えた。 「髪、切って欲しいんだあ」  彼女は茶髪を指に巻きつけながら言った。俺は美容師を目指していて、よく女の子の髪で練習をさせてもらっている。 「いいけど、タダで?」  おどけた感じで訊いた。彼女は少し唇を尖らせて拗ねた顔をした。 「じゃあ、体で払う」 「切らせていただきます」  力強くうなずくと、うふっと嬉しそうに笑った。 「またあとでね」  俺の頬を軽く撫でると、何度か振り返りながら教室を出て行った。短いスカートから覗く太ももが、ムチムチしていて美味そうだ、と思った。 「すけこまし」  俺の膝に座って漫画を読んでいた悠羽がぽつりとつぶやいた。 「言葉のチョイスがおかしい」 「ヤリチン」  悠羽の科白に、隣の眼鏡女子が、軽蔑のまなざしを向けてくる。 「こら」  悠羽の後ろ頭を小突いた。 「だって今の彼女じゃないじゃん」  悠羽がページをめくっていた手を止めて、「甘酸っぱい青春っ」と腕を振り上げた。その腕が鼻先をかすめ、慌てて仰け反った。  この漫画は俺の私物だ。今朝コンビニで調達した、人気の少女漫画の最新刊だ。女子を釣るつもりが、男子が釣れた。     
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