792人が本棚に入れています
本棚に追加
一学年上の先輩が、昼休みにわざわざ教室に現れ、俺の机のそばにちょこんと腰を落とし、上目遣いで訊いてきた。開いた胸元から胸の谷間が見えた。
「髪、切って欲しいんだあ」
彼女は茶髪を指に巻きつけながら言った。俺は美容師を目指していて、よく女の子の髪で練習をさせてもらっている。
「いいけど、タダで?」
おどけた感じで訊いた。彼女は少し唇を尖らせて拗ねた顔をした。
「じゃあ、体で払う」
「切らせていただきます」
力強くうなずくと、うふっと嬉しそうに笑った。
「またあとでね」
俺の頬を軽く撫でると、何度か振り返りながら教室を出て行った。短いスカートから覗く太ももが、ムチムチしていて美味そうだ、と思った。
「すけこまし」
俺の膝に座って漫画を読んでいた悠羽がぽつりとつぶやいた。
「言葉のチョイスがおかしい」
「ヤリチン」
悠羽の科白に、隣の眼鏡女子が、軽蔑のまなざしを向けてくる。
「こら」
悠羽の後ろ頭を小突いた。
「だって今の彼女じゃないじゃん」
悠羽がページをめくっていた手を止めて、「甘酸っぱい青春っ」と腕を振り上げた。その腕が鼻先をかすめ、慌てて仰け反った。
この漫画は俺の私物だ。今朝コンビニで調達した、人気の少女漫画の最新刊だ。女子を釣るつもりが、男子が釣れた。
最初のコメントを投稿しよう!