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須賀大和
「セックスしたい」
日曜の昼。自室のドアがノックもなしに開いたと思ったら、悠羽の声が唐突に言った。勉強をしている手が止まり、シャープペンの先が折れた。俺はカチカチと芯を出しながら、咳払いをしてから「すれば」と言った。
悠羽はいつもこうだ。自分が思っていることをなんでも口にして、他人を困らせる。
「すればじゃなくてさ」
「避妊さえすれば別にいいと思う」
俺はわざと冷めた言い方をした。悠羽の性の事情は、知りたくもないのにいつでも耳に入る。本人が滔々と語るせいだ。中学二年のときに、今と同じように「セックスしたい」と言い出し、特に好きでもない女子と関係を持った。その女は、たちが悪く、悠羽がベッドでいかに駄目だったかを周囲に嬉々として語った。それがショックだったのか、今の今まで悠羽の口から「セックスしたい」という言葉は出てこなかった。どうやら傷が癒えたらしい。
「ちがうんよ、スガちゃん」
「何が?」
「俺、スガちゃんとセックスしたいの」
今度はシャープペン本体が折れるかと思った。俺は眼鏡を外して目の間を揉むと、悠羽に向き直った。
「何がどうなったらそんな発想が生まれるんだ?」
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