先攻:美晴

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 その日、春臣は仕事の商品企画が見事に通り、初めて上司に褒められ有頂天になっていた。これまで何度も挑戦してきた新商品のプレゼンで、ようやく自分の案が採用されるかもしれない。 「坂木君、とりあえず案は通ったけれど、本番はここからよ。私もサポートするから、頑張りなさい」  そう言って見上げてくるのは、山口 美晴(みはる)、29歳。春臣の直属の上司だ。  常に品の良いスーツをびしっと着こなし、ばりばり働くキャリアウーマンの鏡のような人で、男性社員はもちろん、女性社員からも人気があり、人望の厚い存在だ。さばさばとした性格が男女問わず話しやすいと評判で、彼女を嫌う人間を春臣は見たことがなかった。  年上で上司だったが、一番端的に美晴を言い表すなら「柑橘系のセクシーさがある女性」だと思う。以前美晴からふわりと漂う甘く爽やかな芳香に気づき、「いい香りの香水ですね」と話した時に、「これ、香水じゃないのよ。家で焚いてるアロマ。マンダリンがすごく好きでね」と返されたことを思い出す。
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