先攻:美晴

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 食べ方もだが、靴をつい揃えてしまったりする几帳面さは、親の教育がいちいち厳しかったから、というのもある。そういう知らず知らずのうちに出てしまうきちっとした行動が、いちいちくそ真面目なんだそうだ。 「なーんか、坂木君って見るからに誠実そうだよね。遊んでなさそう」  ビールを煽り、厚焼き玉子をつつきながら、しみじみとそんな事を言う上司――美晴と、なぜか飲みに行くことになったのは驚きだった。会社を出るタイミングがたまたま一緒になった美晴から、初めて「飲みに行かない?」と誘われれば、断る理由もない。むしろ心が一瞬浮き立った。まあ、今日のプレゼン成功のお祝いなんだろうな、と思いつつ、美晴の案内でとある居酒屋に入ったのは20時過ぎ。  今日は花の金曜日だ。終電の時間だけ気にすればいい。下心……がない訳ではなかったが、まさか自分と美晴がそんないい雰囲気になるはずもないだろう。その時はそう思っていたのだ。その時までは。
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