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「飲みすぎじゃないですか? 山口さん」
春臣の言葉に、美晴は「う~ん」と唸り声を上げて抗議する。
「まだ飲めるって~」
まさかこんなに酔っ払ってしまうとは。美晴の性格だから、自分が飲む量もコントロールして、酔い過ぎないよう気をつけるのだとばかり思っていたのに。確かビール3杯おかわりしたあと、ウーロンハイとカシスオレンジを飲んだ辺りからおかしくなった。普段の隙のなさに綻びが出てきて、春臣にやたらと絡んでくるようになった気がする。
「ねー、春臣くんは、年上嫌いー?」
呂律の回っていない舌足らずな言い方は、いつもとはがらりと雰囲気が変わって幼ささえ感じた。こういうやり取りに慣れていないため返事に困って無言になってしまう春臣に、美晴は口を尖らせる。
「なんとかいってよぉ……。まあ、29歳じゃおばさんだよね……。でも、後悔はさせないよー」
「ど、どういう意味ですか? 山口さん、からかわないでください」
「……春臣くんって、ほんっとくそ真面目!」
肩をどつかれて、春臣はさらに困惑を深めていく。絶対にからかわれているのに、どきどきしてしまうのは女性に免疫がないからだ。そう言い聞かせつつ、春臣はふと気がつくことがあって美晴を見つめる。
美晴はほんのりと顔を赤らめ、口をだらしなく半開きにした状態で、また「ね、春臣くん」と声をかけてきた。いつから名前で呼ばれていたのか。やたらと親しげな雰囲気で自然に名前呼びされていることに、春臣は胸を高鳴らせた。
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