834人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あの……。なんで俺のこと、名前で?」
「……この、にぶチン!」
「にぶっ……にぶチンって……」
目が据わっている。これは完全に酔いが回ってしまったらしい。春臣は大きくため息を吐いて、時計を見た。
「うわっ、23時43分!? あ、あの! 山口さん、終電は?」
春臣の上擦った声に、美晴は確信犯の微笑みで、ふやっと笑顔を向けてくる。
「私、終電23時45分~」
「え、ええっ!? じゃあ、タクシー呼ばないと」
あわあわと落ち着きなくスマホをいじり始めた春臣の手の上に、美晴はそっと自分の手を重ねた。
「……ね。私まだ春臣くんと一緒にいたいな」
「……っ!!」
上目遣いでそんな甘えるようなことを言われて、しかも社内でも人気の高い綺麗なお姉さんにそんな風に言われて、嫌だと断れる男がこの世に何人いるだろうか。
(ここは流されてしまうべきなのか……)
春臣は美晴の潤んだヘーゼル色の瞳に吸い込まれそうになりながら、息を詰めて唇を噛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!