先攻:美晴

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「あ、あの……。なんで俺のこと、名前で?」 「……この、にぶチン!」 「にぶっ……にぶチンって……」  目が据わっている。これは完全に酔いが回ってしまったらしい。春臣は大きくため息を吐いて、時計を見た。 「うわっ、23時43分!? あ、あの! 山口さん、終電は?」  春臣の上擦った声に、美晴は確信犯の微笑みで、ふやっと笑顔を向けてくる。 「私、終電23時45分~」 「え、ええっ!? じゃあ、タクシー呼ばないと」  あわあわと落ち着きなくスマホをいじり始めた春臣の手の上に、美晴はそっと自分の手を重ねた。 「……ね。私まだ春臣くんと一緒にいたいな」 「……っ!!」  上目遣いでそんな甘えるようなことを言われて、しかも社内でも人気の高い綺麗なお姉さんにそんな風に言われて、嫌だと断れる男がこの世に何人いるだろうか。 (ここは流されてしまうべきなのか……)  春臣は美晴の潤んだヘーゼル色の瞳に吸い込まれそうになりながら、息を詰めて唇を噛んだ。
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