影オジサン

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 先生がその場を離れても用務員さんはそこから動かない。ただじっと下を見ている。でもそこにあるべき影は存在してないんだ。  ボクは一度用務員さんを確認した後、廊下を滑って行った影の方に視線を向けたけれど、もうどこにも影はなかった。  いったいあの影はどこに行ったんだろう。  その行方がたまらなく気になったボクの耳に、校舎のどこかから悲鳴が聞こえてきた。  一瞬でそちらに意識が向き、ボクは悲鳴のした方向に走り出した。  辿りついた現場はとんでもないことになっていた。  階段から人が落ちたらしく、怪我をした人達が踊り場にうずくまって泣いたり呻いたりしていたんだ。でもボクは事故自体よりも、怪我をした人達を見て驚いた。だってそこにいたのは、さっき用務員さんを取り囲んでいた高学年の人達だったからだ。  いったい何があったのか気になり、近くの子に聞いてみたら、その人達が階段に差しかかった時、全員がいきなり揺れたり立ち止ったりして、階段から転げ落ちていったらしい。  近くに他の子は一人もいなかったから、誰かが突き飛ばしたとかではないようだけれど、落ちたみんなは今も泣き喚きながら、『誰かが足を掴んだ』とか『背中を押された』と言っている。  やがて保健の先生や他の先生達が来て、怪我をしたみんなは運ばれて行ったけれど、ボクの意識はその人達よりも用務員さんに向いていた。  あの時、確かに用務員さんの足元から影が離れて行った。もしかしたら、それがあの人達を階段から落としたんじゃないだろうか。  それを尋ねたらボクも何かされるかもしれない。それが怖くて、何も聞けないまま、ボクはむしろ用務員さんを避けた。友達にも見たもののことは言わなかった。  でも今日、久しぶりにお母さんとお兄ちゃんの家を訪ねて、家にいたお兄ちゃんにボクはずっと誰にも言わずにいたこの話をしてみたんだ。  お兄ちゃんはボクの話を笑わず聞いてくれた。その後、小学校の時のものだというアルバムを出してきた。 「なぁ。お前の学校の用務員さんて、もしかしてこの人?」
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