影オジサン

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影オジサン

 影オジサンて知ってる?  同じ市内に住む、大学生の従兄のお兄ちゃんから聞いたんだけど、そいつは、一見普通のオジサンの姿をしてるけど、影を自由に切り離して行動させることができるんだって。  お兄ちゃんが小学生だった頃に噂が流行ったらしいけど、ボクはそんなのでたらめだって思った。  でも最近になって、あれは絶対にそうだと思うことがあったんだ。  ボクが通う小学校の用務員さんなんだけど、年は五十歳くらいかな。  六年生の背が高い子より小さいくらいの用務員さんは、目立たない人だけどいつもにこにこしていて、誰にでも丁寧に対応してくれる優しい人だ。  でも小柄なせいで、用務員さんは時々高学年の人達にバカにされたりもしていた。  意味もなくチビ扱いされたり、何もしてないのに邪魔だって言われたりもしていた。  そんな時も用務員さんは、何も言い返すことなくただにこにこしていたけれど、たまたまボクはその場面を見ちゃったんだ。  六年生だと思うけれど、四、五人の男子が用務員さんを囲んで何か言っていた。その途中で、後ろにいた一番背の高い子が用務員さんの背中を小突いたんだ。  周りの様子がいっそうからかう感じになって、今度は違う子が用務員さんを小突く。それを見かねて先生を呼びに行こうとしたら、他にも見ていた子がいたらしく、その場に先生が現れた。  先生は高学年の子達を叱ったけれど、みんな口々にもっともらしい言い訳をするし、用務員さんも黙っているだけ。だから、高学年の子達は用務員さんに話しかけていただけ。小突いたように見えたのは気のせいということになり、その子達はすぐに解放された。  その様子をボクはずっと見ていたから、全部嘘だって言いにいこうとしたんだけど、その寸前、ボクは用務員さんがニタリと笑うのを見たんだ。  小学生にバカにされ、小突かれまでしたのに、用務員さんは確かに笑った。そして、自分の足元に視線を向けた。  それを目にした瞬間、ボクは叫びそうになった。だって、用務員さんの足元から影が離れて、廊下を滑るように移動して行ったから。
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