第二話

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「夏に生まれるで夏生、なのに冬生まれなのか」  へえ、と関心とともに告げられた言葉は、夏生にとって苦にしかならないものだ。夏生の個人情報を見た誰もがそう言うのだ。夏生なのに冬生まれなんだね、と。  個人情報を探られたわけではない。ほんのちょっとした雑談。話の種。しかし、十五年生きていても、未だに夏生は割り切れないでいる。 「父が、とても寒い冬の日に生まれたからこそ、暖かな夏のように生きて欲しいと……」  何度も口にしてきた言葉だ。他人から名前について何か言われる度に説明してきたこと。縹が先程自分の名前について解説したように、自分も名前について話しているだけだ。夏生は必死に自分に言い聞かせ、込み上げる羞恥を飲み込もうとした。 「ふーん、変わった父親だね。よく言われないか?」 「……別に。僕は僕、父は父なので。父について僕が何か言われることはありません。それに父は既に亡くなっていますし」  冬生まれの子どもに夏の名前を与えた風変わりな父親は五年ほど前に亡くなっている。それ以来、夏生は母親との二人暮らしだった。  初対面の人間から、どうして父親の人格について言及されなければならないのだろう。  ここまで言えば、大抵の人がパーソナルスペースに踏み込みすぎたと思ってそれ以上何か言ってくることはなくなる。夏生の経験上、これで一旦会話が途切れるはずだった。 「個人主義ってやつかい。家族はたまたま血が繋がっているだけの他人……その考えはボクも大いに賛成だ」  しかし目の前の少年は夏生の予想を裏切った。踏み込んだ上で妙な同意の仕方をしてくる。  ――なんだろう、このひと。  夏生の中にはすっかり縹に対する警戒心が芽生えていた。やっぱり機械に深く関わる人は人間的に変わっている人が多いんだろうか。  戸惑い、用心深くなる夏生に対し、縹はどこまでもマイペースだった。端末を操作しつつ、言葉を投げかけてくる。 「依頼はクリスタルの解錠ってことだけど、誰か身内のものかい?」 「――亡くなった母のものです」 「実物は?」 「持ってきていますが……」  出したくない。辛うじてその言葉を飲み込み、唇を噛む。  夏生にとってクリスタルはとても大切なものだ。それこそ、十五年分の思い出が詰まっているといっても過言ではないほどに。それをこんな怪しげな人物に預けたくない。
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