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狭義の第一言語すら理解できない夏生にしてみれば、第二言語など理解の範疇外にも程がある。縹の言い分の半分も理解できそうにもなかった。
機械の囁き。そんなものが本当に存在するのだろうか。聞くところによると、第一言語従事者の間でも第二言語の存在を信じていない人がいるのだという。
自分よりほんの少しだけ年上の少年。どこか横柄な態度も、周囲よりも優れた技能を持っているからなのか。
ここを訪れたのは藁にも縋るような思いがあったからだ。何でもあると言われる都市ですら見つからなかった解錠業者。示された可能性は都市の外にあった。
初めて一人で出歩く都市の外。今日は家を出るだけでも大分緊張した。バスでの失敗。縹と出会ってからの数十分。
何のためにここまで来たのか。今日の覚悟を全て水の泡にするつもりなのか。苦いものがこみ上げ、腹の中をぎゅうと掴まれるような感覚があった。
(全ては母さんの形見――クリスタルに込められた思いを知るためだ)
夏生は意を決し、鞄からクリスタルを取り出した。クリスタルは透明な立方体をしており、中央に春の陽光のような柔らかな色合いの四角片が埋め込まれている。そして、四角片を囲むようにして紅葉のような赤い直線が回路を成していた。
「依頼を……お願いします。母の遺した思いを教えてください」
クリスタルを縹の方へと差し出す。母が遺してくれたものはあまりに軽く、美しいものだった。
「――分かった、引き受けようじゃないか」
「本当ですか?」
「嘘をついてどうするんだ。仕事をしなければボクだって食べていけないんだぞ。キミはボクのご飯を持ってきた客人さ。代金分の仕事はさせてもらうよ。ただ……」
手渡されたクリスタルを光に透かしながら、躊躇いがちに縹が口を開く。
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