第二話

2/8
前へ
/57ページ
次へ
 案内された応接室は、脚の短いテーブルと二つのソファがあるだけの殺風景な場所だった。写真や絵画の類どころか、仕事道具になりそうな大型端末や資料の類も見当たらない。 「コーヒーでいいかな。砂糖とミルクは?」 「えっと、大丈夫、です」  夏生が興味深く応接室の中を見回していると、奥でコーヒーを淹れてきたらしい少年が戻ってきた。  二人はまだ自己紹介も済ませていない。見た限り、彼は夏生と同い年か一、二歳上といったところで、紅茶色の癖っ毛に同じく明るい茶の瞳、白い肌が印象的な少年だった。  少年は応対に出たときから一貫して砕けた――ともすれば横柄ともとれる――口調を取っている。一応夏生よりも年上そうに見えるので敬語で話し続けているが、同年代の少年からここまで仰々しい態度を取られたこともない。夏生はどう話せばいいのか判断に困った。 「へえ、ブラックで飲めるんだ。ボクには無理だな。せめてミルクが欲しい」 「はあ」  振られた雑談にも、身の振り方が決められないため曖昧な返事しか返せない。しかし相手は気を悪くした様子もなく、何も入っていないブラックコーヒーを夏生の方へ、もう一脚のカップとミルクピッチャーを自分の手元に置いた。 「クリスタルの解錠、という話だったけれど、まずは軽く自己紹介といこうか。ウェブの情報だけでここに来たんだろう? なら、色々と驚いていることだろうしね。ボクはこの事務所の職員で所長を務めている縹だ。古い言い方をすれば一人親方ってやつさ。他に人員はなし。仕事はボクひとりで行っている」  そう言って差し出されたのは、今時珍しい紙の名刺だった。  縹電機事務所 所長 縹。  青とも緑ともとれる色合いのインクでそう書かれていた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加