第二話

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 夏生より僅かに年上に見えるとはいえ、この若さで独立しているとはにわかには信じられない。思わず相槌を打つのも忘れて、驚きに目を見張ってしまった。  夏生の住む都市は、郊外を含め十四歳で成人と認められている。親元を離れ、ひとりで暮らすことも、学業に励むのではなく労働に従事することも個人の自由。ただし、酒や煙草といった嗜好品は二十五歳を過ぎてからと別途規制されている。現在十五歳の夏生は、成人を迎えて一年と少し経ったところだった。  年上らしきこの少年が、独立して事務所を構え、ひとりで仕事を行っているというのは、制度上何らおかしな話ではない。だが、夏生の周りではあまり見かけない類の生き方だった。多くの人間は、十八歳まで労働ではなく学業を選び、親元で暮らしているのだから。 「あの……表札には〝花田〟とあったんですが、お名前は花田ではなく、縹、なんですか?」  読みこそ〝はなだ〟と同じだが、花田と縹では姓と名で全く異なる。花田という表札を目の当たりにし、暫く固まってしまった自分を思い出した。 「字が違うのが気になった?」 「字というか……花田だと名字でしょう? この街で名字を名乗られる方は珍しいなと思って」 「まさかボクの名前を花田縹だと思っていたり……」 「し、しません!」  姓も名も同じ読みの人間など、どれくらいいるというのか。からかわれていることにも気付かず、夏生は全力で縹と名乗った少年の発言を否定した。 「冗談だよ。街の流儀にのっとって名乗りはしないけど、ボクの名字は花田じゃない。単に名前の縹をもじっただけさ。ボクの名前は簡単に言ってしまうと花色って意味でね。花の青汁で染められた色。だから花田と書くこともある」 「へえ……」  縹が得意げに聞かせてくれた名前の由来は、夏生が初めて耳にするものだった。学校の勉強は色々と頑張ってきたつもりだが、こういった話を見たことはない。 「さて、次はキミの番だ。自己紹介を……いや、まずは書類に依頼書を書いてもらおうか」  縹が傍らから携帯端末を取り出し、書類画面のままずいっと夏生の前に差し出した。一緒に寄越されたタッチペンと一緒に受け取り、必要事項を記入する。不思議なことに書類には依頼内容の項目が記載されていなかった。  全てを書き終え、端末を再び縹へと戻す。
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