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「私が繁勇くんを誘ったのが悪かったの。だから、繁勇くんには迷惑かけたくなかったから、言わないつもりだったんだけど……、誰にも相談できなくて」
あれは五ヶ月も前の事ではなかったか。いつ彼女が妊娠に気付いたのかわからないが、彼女は『誰にも相談できずに』今まで過ごしてきたのだ。それがどれだけ重責だったか。
「ごめんなさい、僕のせいで。でも、僕もちゃんと赤ちゃんの面倒みるよ。お金はないけど、赤ちゃんの為なら、出世払いでうちの親に借りるから」
「産む気ないって言ったでしょう?」
彼女は論点のズレを冷静に指摘した。
「ねぇ、まだ下ろせると思う? 会社にも家族にもバレないようにできるのかな? 仕事休まないで下ろせるかな?」
繁勇は気が遠くなるのを感じた。彼女の言葉が繁勇の意思にかすりもしなかったからだ。
「待って。何で下ろすの? 一緒に育てようよ? 結婚してないから? 二人で赤ちゃんを愛してあげれば、順番なんて関係ないよ」
だが彼女は繁勇に苛立ちを感じ始めたようだった。怒りの混ざった口調で、こう告げた。
「だから、私は子供を育てる気なんかないの。私は子供、嫌いなの。うるさくて、身勝手で、見てるだけでムカつく」
繁勇は彼女の言葉に酷く衝撃を受けた。繁勇の思考ではどうさまよってもたどり着かない感情だった。
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