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「何? どういう意味だ。今度こそはっきり説明しろよ。もったいぶった言い方はなしにして」
「まあ・・・そうカッカしなさんな。
説明。うん、説明か。そうだな。最初に言ったよな。ノリエという学校伝説は、マイナーで広まらず、しかも細部が全く分からない、と」
「聞いた。あんたが旧校舎で遭ったのが、とどのつまり、そのノリエだったというオチなのか?」
男は、今度はやや落ち着いて酒をすする。一口だけ。
「だから、焦りなさんな。広まらないのは、こうは考えられないか。
俺たちみたいなめに遭った奴らがいるとする。
特定の学校の特定の校舎に忍びこむかーー下校時間が過ぎても残って、探検気分か肝だめしごっこか。・・・とにかく決められたルールってやつを破って、結果、ひどいザマになり発見される。
学校はどうするだろうな? 警察沙汰にするか? そういう連中は在校生か卒業生、でなかったら成人の学校関係者だろう。教員、職員、出入りの業者。
何にしろ悪い噂がたつのは避けられない。それ以前に管理責任が問われるのは今も昔も御同様だ。だったらーーふつう、隠ぺいするんじゃあないか? そんなことはありませんでした。何も起こってはおりません。証拠隠滅、口裏あわせ・・・ありそうだろう」
「うーん」
「発見された方もまあ、似たようなコースだ。ガキはガキなりに。成人は当然。世間体が第一だ。日々の生活はもちろん、将来ってやつが、かかっている。
家族や保護者等、関係者は因果を含められ、箝口令が敷かれるだろうな。生死にかかわっていれば別だろうけれど。
で、結果、怪我をしていようといまいと、内々で処理されてしまう。
いやいや、狭い地域だ。近所の目は別物だ。そこに住んでいられなくなり、転居も多いかもな。いや、実際、そうだったと思わないか?」
「ううむ」
「その結果、ノリエの噂は中途半端にしか広まらなくなる。何しろ、関係者が強固に口をつぐむし、隠ぺいに奔走するんだからな。だが、それだけじゃあないんだ」
「それだけじゃない?」
「ああ。山田、加藤、田中・・・俺の仲間たちの成り行きを見るとな。いや、俺も側で見聞きしたんじゃあないんだが」
男の眼に、再び恐怖の色が浮かんだーーように見えた。
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