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「というのも、俺が遭った『アレ』に命じられたことを遂行しないで、そのままでいるとーー消えてなくなるらしいんだよ」
「消えて・・・なくなる?」
次から次へと何を言いだすんだろう、この男は。知合いがそう思ったのも、これもまあ当然だ。
「それが適当な言い方かどうか、俺にもわからん。山田たちは、怪我が治っても高校には来なかった。当然、卒業祭も不参加だ。
三人とも遠方に引っ越してーーいや、少なくとも一人は『施設』暮らしを余儀なくされたらしい。俺の言いたいことは分かってくれるよな?
ところが、施設に入った奴はもちろん、引っ越した連中にもどうしても連絡がつかない。最初は事情を知っている俺を避けているのかと思ったがーーちがうんだ。
噂で・・・断片的に耳に入ってきたのは。一人は新しい土地で就職したんだが、朝、ふつうに家を出てそれっきり。どこに行ったのか、まったく分からない。なんというかな、神隠しってヤツ?
もう一人も似たようなもんでね。こいつは自宅に引きこもっていたそうだが、気づいたら部屋にいない。どこにもいない。出かけた形跡がまったく、ないのにだ。鍵も部屋の内側からかかっていたらしい。
失踪、ってやつとは少し違うだろう。だが、最後はおんなじさ。奇怪ではあるけれど、犯罪臭があるでなし。警察に捜索願は出されたかもしれないが、今頃は『未処理』の書類のなかに埋もれているだろう。
そんなものさ。この国では、毎年、ものすごい数の人間が行方不明になるらしいから。
もちろん、その中には訳アリもあれば、計画的なものもある。後で見つかるのも大勢いる。けどな。しかしな。こいつらは違うんだ・・・」
「その、施設に入ったとかいう最後の一人は?」
知合いは、確認せずにいられなかったと。
「うん。こいつが一番、不可解ってことになるか。施設のトイレに入ってーー職員が個室の前で待っていたそうだ。ああいう場所では、『事故』が起こりがちだからな。そんなことになったら、職員が問責されるーーだろう。だから個室といっても、名ばかりのはずなんだ。それなのに、ほんのちょっと目をはなしたらーーもう、そこにはいなかったらしい。悲鳴もあがらない。物音も響かない。なのに・・・。
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