ノリエ

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 知合いに、実話怪談本を出しているヤツがいる。  そいつは、よく飲み屋に行くそうだ。  そう、安酒専門で。何とかログには載らないだろうが、それなりに流行っているという店に。  べつだん、酒が好きで好きでたまらないというわけじゃあ、ない。  ああいうところは、何というのかな。色んな人間が集まってくる。そうして、様々な話を開陳する。どうしようもなく、くだらない話。天下国家を憂う話。会社の内部事情。エロ話。痴話げんか。あるいは、ちょっとーーいや色々な意味で危ない話。挙げていけばキリがない。  その中には、怪談や、それに近いものも当然まじっている。  知合いは、そういった話をチョイスして聞き取り。時には初対面の人間に一杯おごるなどして、『ネタ』の収集に励んでいたのだ。やり方として、正しいか正しくないか。効率的かどうかは知らない。そういったやり方もあるということだ。  そうしてーーある夜。その話を耳にすることになった。 「あんたーー知ってるかい? ノリエをさ」  相手は初老にも見えたし、50前後くらいにも見える男だった。寒気がしのびよる季節だったが軽装でーーあまり、まっとうな仕事をしているようには思えなかった。知合いは、最初無視をしていたそうだが、酔漢の常として向こうから、ねちっこく話しかけてきたそうだ。 「ノリエ? 芸能人か何かかい。最近の歌手とか新人とかーーそういうのは詳しくないなあ」 「違う。ぜんぜん、違うんだ。なあ、あんた、聞いてくれるかい・・・」  軽装ではあったけれど、男は髪の毛も服も清潔で、ホームレス等には思えなかった。多少、アルコールのメーターはあがっているようだが、店の他の客も五十歩百歩だ。  違法薬物なんかに手を出している手合いなら、すぐに分かると知合いは言う。その意味でも男は、まあマトモに思えた。だから耳を傾ける気になったと。  そもそも知合いは、そのために店に通っていたわけだし。その時点では使える話かどうかは、まったく未知数だった。未知数だったんだが・・・。 「口裂け女とかーー流行ったことがあったろう。おぼえているかい? 色々と騒動が起こってさ。警察まで乗り出してきたじゃあないか。あの頃、俺はまだ高校生だった。俺の学校には卒業祭ってヤツがあってさ。文化祭ほどじゃあないが、それなりに盛り上がるんだ。  
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