ノリエ

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 少し興味をひかれた知合いは、重ねて問いかけた。『ネタ』の臭いを感じたんだろうな。知合いは都市伝説のたぐいにひどく詳しかったが、その、ノリエってヤツは初耳だった。  しかし。 「・・・分からん。いや、分からなかったんだ。噂は確かによく聞く。ところが、かんじんの遭った奴が、まず分からない。学校伝説なんだから荒唐無稽なのは、まあ、当たり前なんだがね。それでも断片くらいは聞こえてくるもんだ。荒唐無稽だけれど、ほんの少しのリアリティ。それが必須、だろう? あんたは、そういうのに詳しいはずだ。それがーー皆無。だから、何が起こるのかも分からない。分からない尽しでね」 「ふうん。なんだか、中途半端だな」  口裂け女にしろ、花子さんにしても、無数のバリエーションがある。それが学校伝説を含む都市伝説の特徴だ。  伝播の過程で大勢の人間が話を脚色し、尾ひれはひれがつき。原型が分からなくなるほど変質する一方で、また増殖してゆくものなんだが。  知合いは、当然、その事を指摘したよ。すると男はちらっと顔をあげてーー知合いの方に値踏みするような視線を送った。イヤな感じだったそうだ。 「・・・そうだ。ノリエのことは何も分からなかった。だから俺たちは、その続きをつくろうと思いたったのさ。つまり」  かつて在学していた小学校に忍び込み、ノリエが現れるという校舎を克明にフィルムにおさめ。自作自演でオリジナルの、ノリエのストーリーを描写する。  いないならば、細部が分からないならば? 自分たちでつくってしまおう。創造しよう。嚆矢になろう!  馬鹿げた、あるいは呆れた発想だが、それを馬鹿げているとも何とも思わない年頃だった、と。 「誰が言いだしたか忘れたが、部員で俺を含めて4名が乗り気になった。今、思えばやめておけばーーやるんじゃなかったよ、あんな真似。心底そう思うのさ。  とてつもなく高く、ついたーーといって、今からじゃあ、どうにもならないんだが・・・」 「どういうことだ。何か、あったとでも?」  男はまた冷酒をすすった。一口だけ。  そして、知合いの問いには答えずに話を続けるのだった。 「・・・学校に忍び込むこと自体は、ぞうさもなかった。『あの事件』のずっと前だ。警備員が常駐しているわけでも、監視カメラがあるわけでもない。ゆるゆるさ。    
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