ノリエ

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 それに、問題の校舎はーーその頃は旧校舎か。鉄筋4階建てなんだが、取り壊し予定でね。人気がまったくないんだ。これ以上はないくらいに、おあつらえ向きだったよ。まあ、それも一つの手管だったんだろうが」 「手管?」  妙な単語が急に飛び出てくる。手管とはなんだ? けれど、男はこれもやはり無視だった。 「晩秋でーー日没前だった。  まあ、馬鹿だと言っても平日を避けて日曜を選ぶくらいの頭はあった。校庭は広かったけれど、寒空の下、遊んでいるやつは誰もいない。教員もな。俺たちをとがめる大人はいやしない。で、俺たちは簡単に旧校舎の中に入りこんだ。出入り口の鍵は旧式で、おまけに壊れていたよ。ちょろいなんてもんじゃあない。  もっとも、校舎内は電灯なんか点いていないんだが。残照がさしこんできて、ちょうどいい雰囲気の薄暗さだった。  他の三人。まあ、名前は山田、加藤、田中とでもしておこうか。  一人は廊下で持参した装束で仮装を始めた。雑なーー幽霊のできそこないもイイところでね。こいつがノリエ役ってわけだ。  それから全員で中央の大階段に行って、これも持参した機材で階段をのぼりながら撮りはじめた。  ほら、よく怪奇ドラマなんかであるだろう。のぼってものぼっても果てがない階段。  あんなもの、簡単な編集だ。高校生だって楽々だ。最近ならスマホの動画で、小学生だって編集できるレベルか。    まあ、それはいい。そうやって薄暗い階段をのぼっていくと、当然4階の踊り場に出る。そこから上は屋上だ。予定では、まずそこに仕立てたノリエを雰囲気たっぷりに立たせるはずだった。ところが」 「ところが? どうした?」  言葉を切った男はさらに冷酒をすする。一口だけ。 「踊り場にーー誰か、いたんだ」 「誰かって・・・誰だ?」  男は冷酒の入ったコップを握る。が、今度はすすろうとしない。 「最初は教員の誰かだと思った。当時はまだ、宿直制ってヤツがあったはずだから。見回りに来た教員に運悪く見つかったんじゃあないかと。そうなるとコトだ。高校生の鳥頭でも想像がつく。何しろこっちは公共施設への不法侵入。私設の無断徘徊と無断使用。それからひょっとすると器物破損。タダじゃあすまない。俺は、金縛りみたいに動けなくなったよ。他の連中も似たようなものだったろう。けれど」 「けれど?」 「・・・何か、おかしい。    
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