ノリエ

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「・・・そうしたら、気配はさらに近づいてきた。それでも背後を見ることはできなかった。  直感が教えていたんだな。  見るな。絶対に後ろを見るな。見るんじゃあ、ない。後ろを見たら、何もかもオシマイだ。  とにかく、生き延びたかったら。少しでも命を長らえたいのなら、絶対に後ろだけは見るなーーとね。  そして・・・・・・・・・・・・あの声が俺に命じたんだ」 「命じる? 何を?」  またしても無視。答えるかわりに男はふるえる手で、グラスの酒をすすったそうだ。今度はマトモに口に流しこむことができず、相当こぼしながら。 「翌朝。旧校舎のあちこちーー離れた場所で倒れている俺たち4人を、見回りに来た用務員が発見してね。大騒ぎになったよ。俺は打ち身程度だったが、仲間の内、一人は複雑骨折で重傷だった。残りもーーいや、怪我の程度なんか、どうでもいいんだが。ああ、実際、どうでもいいことさ。どうでも・・・」 かんじんかなめの部分を、意図的かそうでないのか『告白』部分から除かれ続けてきた知合いは、この時点で我慢が限界に達したらしい。そりゃあ、そうだろうな。 「おい。あんた、その話は、いいかげんなホラやーーつくり話のたぐいじゃあないだろうな?」 「つくり話?」 「ああ。さっきから聞いていたら、あんた、何回、こっちの問いを無視した? 自分のつくり話の矛盾点やら何やらを隠すためか。それとも、話を盛り上げるための演出か何かなのか?」  するとーー男はニヤッと嗤ったそうだ。笑う、じゃあない。嗤う、だ。 「とんでもない。そんな気はもうとうないよ。それに、俺はもう、あの時、命じられたことはあらかたすませているわけだしな」
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