４階

　さっそく大家に交渉すると、ワンフロアの賃料が３万円と告げられ、Yさんは驚いてしまう。あまりにも安いのだ。３フロアを借りても９万円にしかならない。

　事故物件というワードが真っ先に頭に浮かんだ。もしくは４階に入っている会社がその筋の人かもしれない。

「こんなことをお聞きするのは大変失礼なんですけど、事故物件ということはないですよね？」Yさんは大家の顔色を伺いながら恐る恐る訊ねた。

「大丈夫、大丈夫」大家は笑顔で答えた。

「ちなみに４階はどんな会社が入っているんですか？」続けて質問した。

「４階は･･････」急に大家の顔色が変わった。「一応、空きテナントです」

「え？　それじゃあ全部借りることもできるんですか？」

「いや･･････４階は駄目です」大家はどうも歯切れが悪い。

　Yさんはそれ以上深く詮索するのを止めてしまった。もしかすると４階が事故物件なのかもしれないと予想していたからである。

「１階から３階までは問題が無いのなら、別に良いのではないだろうか」と、Yさんは楽観的に受けとめ、結局そのテナントを借りることにしたのだった。