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美也子と透はその後、浴室に入り。汚されたお互いの体を、洗い合った。美也子は透の下腹部につけられた傷跡も、いとおしいものを愛でるかのように、大切に洗った。透はなんの抵抗もせず、それを受け入れていた。お互いの体と心に刻み込まれた苦痛を洗い落とし、再び味わえるとは思っていなかった「自由の身」を確認し合うその二人の姿は、あたかも一枚の母子像の絵のようだった。
浴室を出て、着替えを終えた美也子と透は、一樹の家の玄関に向かった。カギは、一樹の脱いだ服の中から見つけることが出来た。玄関の扉を開けると、まだ昇りきっていない、眩しい朝日が二人を照らし出した。
「うわあ……眩しいね」
片手を顔の前にかざし、その眩しさを少し遮りつつ、しかしその指の隙間から見える暖かな陽の光を、二人は存分に浴びていた。遠くの方からかすかに、サイレンの音が聞こえて来る。先ほど電話しておいた、警察だろうか、救急隊だろうか。美也子は透の手を握り、にっこりと微笑んだ。透もまた、顔を上げ、美也子を見つめながら、嬉しそうに微笑んでいた。
ここでの戦いには、なんとか「勝った」けど。また、始まる。新しい戦いが。透君を虐待から守るための、戦いが。きっと苦しい戦いになるだろう。責められもするだろう。でも、やって見せる。やり遂げて見せる。今の美也子には、その自信があった。透君のために。私なら、出来る。やってみせる。美也子の決意は、もういささかも、揺らぐことはなかった。
「さあ、透君。帰ろうか」
美也子は透を見つめながら、そう語りかけ。その手と手をぎゅっと握りしめたまま、朝日に照らされた明け方の道を、ゆっくりと歩き始めた。
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