第二章 満里奈

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「はじめまして。あなた、お名前は……?」  最初に彼を見たのは、大学の知り合いと行った、いわゆる「合コン」の席だった。相手はみんな、結構有名な私立の大学生だって! という誘い文句に乗り、その時前の彼氏と別れて間もなかった満里奈は、これは絶好のチャンスだと気合を入れてその合コンに臨んだのだが。いざ行ってみると、「有名私立の学生」は相手のメンバー中一人だけで、後はその大学生のチャラチャラした友人ばかりだった。  まあ、もともとこっちも「チャラチャラした女子大生」だし、この場は楽しく飲めればいっか! と割り切ろうとしていた満里奈だったが。合コンが始まってからほとんど会話の輪に加わっていない、一人の男に気づいた。おそらくはこういった飲み会ではありがちな「人数合わせ」で呼ばれてきただけなのだろう、彼はテーブルの端で酒も飲まずに、ただ目の前の料理を淡々とつまんでいた。  こういう「仲間外れ」的な人物を見かけると、放っておけないのが満里奈の性格だった。その頃にはすでに「親友」と呼べるほど親しくなっていた美也子も、最初はそうだった。新入生の歓迎会で、皆がわいわいメルアドなどを交換したりする中、一人所在無げにしていた美也子を、満里奈は見過ごせなかった。 「あたし、渡瀬満里奈。芸能人の渡邊満里奈とは一字違い。親がファンだったみたいなの、満里奈ちゃんの。娘もあんな風に可愛く育って欲しい、みたいな。そんな浅はかな親の期待を背負って18年間生きてきた私です! よろしく!」 「あ、うん。私、川崎美也子。よろしく……」  なんだか地味な名前でごめんなさい、と謝る美也子の背中を、なに謝ってんのよ! と軽く小突き。そこから、美也子との友情が始まった。こういう子は、他人とのコミュニケーションの仕方がわからないだけで、打ち解けてしまえば案外仲良くなれるものなのだ。こういった飲み会の誘いにも、断ったら悪いと思って参加するものの、そこで皆と同じように上手く盛り上がることが出来ない。でも、こちらから声をかけてあげれば大丈夫。  満里奈は小さい頃からいつもそうやって、一人でいる子に積極的に声をかけてきた。なので、そんな子たちを仲間外れにしようとするグループと対立したりして、クラスの中人人物にはなれなかったけど。満里奈はそれを後悔したりしなかった。何か、それが自分の使命であるという思いすらあった。
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