第三章 一樹

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「君は自分で何を言ってるのか理解出来てないんだよ自分の言ったことがどれだけ馬鹿げたことなのかまるでわかってないんだどう考えても君の人生に於いて僕と別れるという選択肢はありえない君は自分が間違っているってことを今すぐ認識すべきなんだ!」  満里奈に「別れましょう」と告げられた時、一樹は思わずそう口走った。言わずにはいられなかった。だが、満里奈は「戻って」こなかった。間違ってる。君は、間違ってるんだよ。それを、俺が教えてあげる。どんなことがあっても。  一樹を避けようとする満里奈を、一樹は執拗に追いかけ。大学から、バイト先のベビーシッターをしている家まで。調べあげ、追いかけ続けた。そんな一樹の鬼気迫る様子に、母親も気付き。さりげなく、前によく来ていたあの子、最近どうしたの……? と、一樹に尋ねたりしたのだが。それは返って逆効果だった。お前らまで、俺の邪魔をするのか。お前らも、満里奈とグルなのか?! もうすでに、一樹の思考は一方向に向かって、果てしなく突き進んでいた。そんなにまで俺を避けるのか、満里奈。もう、以前の満里奈ではなくなってしまったんだな。仕方ない。満里奈、お前を永遠に、「俺のもの」にする……!!  昔からずっと、他人のような関係だった一樹の両親だったが、犯罪まがいのことをしているかもしれない一樹の様子に、母親はさすがに不安になり、父親に相談した。「ちょっと、お父さんからも、お話があるから」と母親に言われて、一樹はこれはチャンスだと考えた。親父とお袋が一緒にいるなんて、願ってもない。俺と満里奈のことに口を出すなら、もう親でも何でもない。……そうだ。この機会に、満里奈を「自分のもの」にする前に。「こいつら」で試してみるのもいいな……。一樹は両親の揃った食卓に、調合した麻酔薬を忍ばせ、冷静な表情を保ちながら、席についた。    満里奈と仲のいい、美也子という女も、ベビーシッターのバイトをしているらしい。最近自分のバイト先の家にいないと思ったら、そっちに行ってるのか。いいだろう。ベビーシッターのバイトをしてるってことは、その子の親が不在だってことだ。ちょうどいい。満里奈、待ってろよ。もうすぐ、俺のものになる。俺だけのものに。そのためには、いかなる障害も、排除する。  一樹は、全ての準備を整え。満里奈と美也子のいる、柿崎家へ向かって行った。
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