第一章 美也子

9/20
124人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
「でもさあ、君には僕が必要なんだ! とか、それに気づいてないだけなんだとか、なんだかロマンチックじゃない?」  落ち込む満里奈を元気付けようと、美也子はあえて明るくそう話したのだが。満里奈の表情は晴れなかった。 「うん……そうなんだけどね。実際そういうところが彼の魅力だったんだけど……結局、自分中心の考え方しか出来ないのよ。ご両親がお医者様で、そこそこいいとこのお坊ちゃんだっていうのもあるかもだけど。でも、なんて言うか、人の気持ちを思い図るっていうのが出来ないのよね。相手がどう思うかより、自分がどう思っているかが大事なことで。ううん、相手がどう思うか、考えているかなんてことは、眼中にないって言うか……」  これもまた、子供の前で話すような内容ではないと美也子は思ったが、落ち込んでいる満里奈を見ると、今は話したいことを飲み込まずに話してしまった方がいいような気がした。 「それで…・・・?」  美也子がそれとなく先を促すと、満里奈は更に曇った表情で話し続けた。 「うん。そんな風だから、デートなんかも自分本位で、最初は行ったことないような高いお店に連れてってくれたりして嬉しかったんだけど、だんだんそれが重荷になってきて。あたしとしては、そういうのもいいけどたまにはリラックスしたお店で羽目を外したいなんて時もあるんだけど、彼が許さないのよ。僕と君には相応しい場所があるんだ、とか言って。それが徐々にエスカレートしていって、あたしの言葉遣いや行動範囲にまで口を出すようになって……言ってみれば、彼の考える理想像にあたしを近づけたい、それだけだったのよね。そういう束縛みたいなものはあたしの一番苦手なものだったから、もう限界、別れましょうって言ったんだけど……問題はその後、だったの」  いまや明菜と透も重苦しい調子の満里奈の話にじっと耳を傾けていた。美也子もそれに気づいてはいたけれど、美也子自身もその先を聞きたいという思いがあったので、満里奈の話を止めることはしなかった。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!