第一章 美也子

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 学年は明菜の方がひとつ上で、しかもこの年頃だと女の子の方が大人びているものだし、透にしてみたら明菜は初恋の相手を通り越して「憧れの女子」なのかもしれない。明菜が来るとわかってからの透の落ち着きの無さ、そして来てからの緊張した姿を思い出して、美也子は何かほっこりしたような気持ちになっていた。 「じゃあ透君、休憩してケーキタイムにしようか。満里奈、お皿出すの手伝ってくれる?」  満里奈は「はいよ」と返事をし、美也子と一緒にキッチンへ向かった。二人が揃って居間から出て行ったあと、明菜は透の横にちょこんと座り、透もそこでやっとソファに腰を落ち着けた。しかし透は座ってもまだ背筋をピンと伸ばしたままで、明菜がすぐ隣に来たことで、明らかに緊張の度合いが増しているのが伺える。透君、ここは気を利かせて「若い二人だけ」にしておくから、頑張って! 美也子は透の健闘を祈りつつ、冷蔵庫からケーキとジュースを取り出した。 「でさあ、カナコったら二股どころか三人同時に付き合ってたんだって! サンマタよサンマタ!!」  満里奈はケーキを突付きながら、美也子に大学の女友達のゴシップ話最新版を熱く語っていた。最初は他愛無い話だったのが、だんだんその内容が際どいものになってきたので、美也子は慌てて「ちょっと満里奈! 子供の前でする話?」と制したが。目の前の明菜は時に嫌がる様子もなく、満里奈の話を微笑みながら聞いていた。まあ、程度の違いはあれ、満里奈と二人きりでいる時はいつもこういう話を聞かされていて少しも慣れているのだろう。この手の話に免疫のない透はさぞドギマギしているのかと思ったら、透は透で、横にいる明菜が気になって満里奈の話どころではないようだった。  美也子は尚も噂話を続ける満里奈と、そして透の明菜に対する可愛らしい恋心を思い、ほのかに心の中が暖かくなるような、幸せな気持ちになれた。なんかいいな、こういうの。心置きなく話せる友達がいて、自分を慕ってくれる子供がいて……引っ込み思案だった昔は、こんな風に他人と、そして歳の違う子供と一緒に笑いあうなんて想像もしなかったけど。そういう意味でも、美也子はこの仕事を紹介してくれた満里奈に、本当に感謝していた。 「まあ、色んな男からチヤホヤされるのもいい気分だろうなって思うけどね、そうやって調子に乗ってると後で痛い目に……」
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