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二時間程、バスに揺られながら、学校のパーキングに戻る。 その間、トモさんは眠り続けている様だったが、頬に涙のあとがある。 パーキングに停めてある彼の古いセリカを、僕が運転して三人でアパートに戻る。 もう一人のルームメートのミキさんは帰省していていなかった。
「スパゲッティーでいいよね?」と聞いた後、ミチ姉とトモさんが、それぞれシャワーを使ってる間、僕はバイクに乗って、近くのグロセリーマーケットに夕飯の買い物に出た。 まだ九月なのに頬にあたる風がやたらと冷たい。
買い物を済ませ、バイクにまたがると、アパートの近くに住むジャッキー先生が小さな買い物袋を一つ下げ、一人薄暗い歩道を歩いているのが見えたので 僕はバイクを彼女の横に停め声をかけた。
「ジャッキー、買い物? もう遅いからアパートまで送ります。 後ろに乗って下さい。」
「りょう、すぐそこだから、大丈夫よ。」
「歩いたら二十分は、かかりますよ、送ります。 気にせず乗って下さい。」
すると、彼女は嬉しい様な恥かしい様な顔をしながら、僕のバックパックに買い物袋を入れて、「ありがとう。」と言い、バイクに乗った。
「スカート、気を付けて下さいね。」
僕の腰に回された腕と、軽く背中に触れる体と、首元にかかる息が暖かい。 彼女を驚かせないよう、ゆっくりとバイクを走しらせたが、彼女の両腕に力が入り、華奢な体を背中いっぱいに感じた。 彼女を部屋の前まで送って行き、買い物袋をバックパックからとりだすと、彼女は頬を朱に染めて、可愛らしいエクボを作り、ニッコリと笑う。
そして、「ありがとう。 また来週から学校ね。」と言った。
アパートに戻ると、バスタオルを頭に巻いたミチ姉に、女の匂いがすると言われたので、ジャッキーの事を話すと、『ミキに怒られるよ!』とからかわれる。
シャワーを浴びてサッパリした後、ミチ姉と夕飯を準備している間、トモさんはボーと天井を眺めながら、僕のギターを弾いていた。 トモさん十八番のビートルズ。 その音は、まるで彼の心の音で、ギターが泣いていた。
食事中、ミチ姉は、『何があったの?』とトモさんに質問したが、彼は、『また今度話す。』とだけ答え、お通夜の様に静かなな食事を摂った。
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