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けれど、今でもあの部長は同じことを言ってしまうだろうという確信があった。
ともかく、その一言で白瀬は自分のポジションを悟った。ひとまず専門医が取得できるまでは妊娠を見送り、淡々と今日まで仕事をこなしてきたのだ。
「幸い、子作りをはじめたらすぐに授かったので……今年の夏に何とか試験も受けられそうですし、帳尻を合わせられました」
「親孝行な子ね」
なだらかな膨らみを眺めていると、羨ましいという思いの裏にチリリとした嫉妬の痛みを感じた。表には出すまいと、わかりやすい笑顔を作る。
「先生のところにも、可愛い赤ちゃんがやってきますように」
自分のお腹を撫でた手で、白瀬は私のお腹をそっと撫でてくれた。たったそれだけのことで、気持ちが緩むのがわかった。
「ありがとう、シラセちゃん」
ちょうど私のPHSが鳴り、その場は解散となった。彼女の触れてくれた温もりが、しばらく残っているようだった。
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