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『生殖年齢の男女が妊娠を希望し、2年以上性生活を行っていても、妊娠の成立をみない場合を不妊症という』
学生時代の教科書を紐解けば、WHOの提言に基づいて不妊症はそう定義されている。
会社員の夫と結婚して、この秋で3年になる。けれど、実際に妊娠をトライできるようになったのは、ここ1年ほどのことだ。
白瀬のいる大所帯の消化器内科とは違い、当院の心療内科は部長と私、医者は2人だけしかいない。そこに臨床心理士の佐野がいて、3人で診療を行っている。つまり、1人欠けるということはたちまち業務が回らなくなることを意味した。
それに、私は白瀬とは異なり、大学医局に所属している。あくまで病院と個人契約の彼女と違い、私は大学の医局から出向という形で勤務している。何かあった際にはバックアップが期待できるものの、勝手な振舞いをすれば他の医局員に迷惑がかかることになる。
出来るだけ行儀よく、産休に入る算段をつけたかった。少なくとも直属の上司である部長からは、手放しで妊娠を歓迎されない空気が漂っていた。
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