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「こんな訳のわかんないストレスいっぱいの状態で、妊娠なんかしそうに思えない。ってか、しんどい、正直しんどい。最近性欲がどっかいっちゃった」
足をぶらつかせながら小声で言い募る彼女の声に、にやにやしながら頷き返す。救急当直の夜を乗り越えるコツは、緊張と緩和だ。否が応でも、緊張は外から持ち込まれるのだから、せいぜい息を抜けるときは他愛をない話をするに限る。
「確かに、頑張るばっかりだと萎えてくるよねぇ」
「そうそう、だから今度、子宝温泉に行くんだー」
「え、めっちゃいいじゃん」
「で、コウノトリの郷行くの。先生、あれ買ってきてあげるよ、コウノトリキティ」
「え、欲しい、嬉しい!お揃いでつけようよ」
カーテンの向こうで搬入口が開く気配がし、女子トークを遮るように足元を冷たい風が浚った。さすがに口をつぐみ、外の気配をうかがう。
「外科?」
「そうそう、腹痛の15歳女子が来るって言ってた。急性虫垂炎っぽいから、最初から外科が診てくれるみたい」
つまり、外科ではなければ内科に振られる可能性があるということだ。当直室に戻らず、しばらく外来にとどまることにした。
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