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車椅子の側にしゃがみ、視線を合わせる。患者の顔色は蒼白だ。これが痛みによるものだけではないのは、安定しない視線から明らかだった。患者は植野の質問に動揺している。
「大事なことだから教えてほしいの。お腹がとても痛むときは、たくさん原因が考えられて、その中には早く手術をしないといけないような病気もあるの」
モウチョウとか、聞いたことがあるよね、と前置きする。虫垂炎ではないことは、植野の対応から明白だが致し方ない。
「そういう時は急いで処置しないと、あなたの体が危険なの」
「赤ちゃんなんて、出来てない……」
「うん、だから出来ていない証拠が欲しいの。尿検査するだけでそれがわかるんだけど、検査していい?」
頷いた彼女を見て、植野が妊娠検査を追加した。看護師に車椅子を押され、固い表情のまま彼女は診察室を後にした。
「ありがとうございました……でも、僕は間違ったことは言っていません」
2人きりになった診察室で、先に切り出したのは植野だった。不本意だということを彼は隠そうともしない。
「そうね」
「あんな母親だから、本当のことを言えないんですね」
「そこまでアセスメント出来てんだったら、もうちょっと言い方があったんじゃないの?」
「…………気をつけます」
「とりあえず、お母さんには私から話をするわ」
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