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生理が来るたびに、ひどく気持ちが落ち込むようになったのだ。経血を目にした途端、喪失感で涙が出ることもあった。こんなに頑張っているのに、どうして報われないのか。基礎体温をつけるという作業も、「努力をしている」というイメージに繋がり、いっそう徒労感を煽った。 知識先行でどんどん狭視野になっていく私と対照的に、夫は泰然と構えていた。 「千鶴が子どもを欲しいのは、よくわかってる」 ついに落ち込みを隠せなくなった私に、夫は切り出した。 「でも、ばっちり排卵日に当たったとしても、妊娠する確率は3割くらいなんだろう?プロ野球選手の打率くらいのもんだ」  打てないことだってある、という彼流の励ましを私はうまく受けとれなかった。 「でも打席に立たないと、ヒット打てないよ」  硬い表情を崩せない私を見て、彼も溜め息をついた。 「次はいつ?」 「多分、明後日」 「わかった。明日はお客さんとの飲み会で難しいけど、明後日は頑張って早く帰るな」  けれど無情にも、体温はその翌朝跳ね上がった。それは、今月もタイミングを逸したことを意味した。 「今日だった」  真夜中過ぎ、赤い顔で帰ってきた夫を泣きながら出迎えた。夫が悪いわけではないことはわかっているのに、どうしても口調に責めが混じる。 「ごめん……」  謝りながらも、夫は釈然としない様子だった。あからさまに肩を落とす私の態度に、無言の圧力を感じたのだろう。訝しげに問い返してきた。 「え、今からしろってこと?」 「出来るの?」     
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