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『A:今回は小学生時代のエピソードを語る。怒りで場をコントロールする母親に対し、Ptは母親の意に沿うように行動することで応じており、今もその関係性は続いている。Ptとしては母親と心理的に距離をおきたいが、「いい子でありたい」という思いの間で葛藤状態になる様子。焦燥はあるが、安全なコーピングを模索できている。  P:処方は頓用で続行。次回診は6週後』  きちんとアセスメントできているか今一度確認し、電子カルテを更新する。大きく息を吐き、天井を仰いだ。慌ただしさの遠のいた診察室に長く居座っているのは、自分自身が調っていない証拠だ。  三谷さんの話を聞きながら、頭の片隅で再生されていたのは昨日の自分だ。思い切り投げ つけたクッションの赤、壁の白。  似たような葛藤を抱えている患者の話は、スムースに聞ける分だけ客観性を保つことが困難になる。患者の語る感情の波をなぞりながら、治療者としての立ち位置で返事をする。間違っても、「昨日、私も同じことをしました」と治療的に意味のない自己開示はしない。それはただ、私の居心地の悪さを解消する意味しかもたない。     
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