第1章

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1  目の前に鉄の格子の扉が立ちはだかっていた。  乗り越えようとすれば簡単な、 鍵がかかっているわけでもない小さな門だったが、 その前で立 ちすくんで動けなくなった。  門に閉じ込められているのではなく、 入って行こうとしているのだったが、 すでに自分が捕わ れの身になっていて、 その捕らえているものが更に奥の閉ざされた所に自分を引っ立てている、 そう思えた。  門を開けて、 中に入り、 背中で閉めてそのまましばらく寄りかかってじっとしていた。 それま で忘れていた顔の痛みを思い出し、 手で切れた唇に手をやった。 まだ血が固まり切っていない。
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