第1章 母の病

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「お母さん、調子はどう?」 午後より更に血の気を失った母親のベルの身体を支え、ローラは摺り下ろしたマナシュをベルの口にひと匙ひと匙運んだ。3匙程口にすると、ベルは口を閉ざし、目を閉じた。眠ってしまったようだ。 村長宅で女中頭をしていたベルが、妙に疲れ易くなったのは半年程前の事だった。 隣村の診療所で診断を仰ぐと、魔臓器不全という病名を告げられた。 魔臓器不全とは、魔臓器の機能が低下してしまう病気である。空気中の魔素を身体に取り込み魔力に変換する臓器の機能が落ちる事で、病状が進むと全身状態が悪化していく。 ギルドが栄えていた頃には、高額だが特効薬があった。しかし国の富国強兵策により衰退した今のギルドには、秘境に生える満月草を採取出来る実力のある冒険者はいない。その結果、魔臓器不全は不治の病の1つになってしまったのだ。 ベルは諦めた表情を浮かべていたが、ローラは諦めたくなかった。医師は対処療法として魔素を多く含む食材を摂取することを勧めた。 騙し騙し仕事を続けていたベルが完全に寝付いてしまったのは、医師の診断から2ヶ月後の事だった。
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