喜悲劇の傀儡 序

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喜悲劇の傀儡 序

 或る狂人のお噺が在る。いや、其れが云うには人間のほうが皆が皆んなして気を狂わされていると云うのだが、世間からすれば其れのほうが狂人と呼ぶに相応の人であると思われるだろう。  其の狂人は面白いと云うには少し足りない、莫迦である。悲劇の大好きな、悲劇を夢見る、幼子の様な人である。正しく述べると、幼子の折から何一つ変わらないまま歳を重ねて了ったのだ。悲喜劇、トラジコメディを信じていた。  其れが今どうして生きているか?困ったことに、こちらにも与り知らぬことである。だが、或る日、其の狂人の手記が送られてきた。送り主の名前は無かったが、見ただけでも判る。読んでみれば、道化役者気取りの可笑しな文体だった。原稿用紙たった6枚のうちに、つらつらと綴られた詩歌と文章は、まさしく気の狂いと呼べるものだった。果たして本当に気が狂ってしまったのかしらなどと考えたが、時折垣間見える苦悩は、本質の未だ狂っていないのを教えてくれる。
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