喜悲劇の傀儡 手記

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 然し、御覧。歪んだ歯車は所詮歪んでいるのだから、まあるい綺麗な歯車なぞには匹敵しやしない。道化は化けの皮が剥がれ落ちる、己惚れは我が身を蝕む。歯車がぱちん、と音を立てて跳ね飛ぶのも時間の問題となるのだ。落伍者は生き辛い。何を成そうとも成らない焦燥、嘗てより薄ら見え始めていた陵夷、誰かを瞻仰し嫉妬する罪悪の念。わたしは璞玉か?答が既に見えている問を自分に突き付けて生きて来たのだ、答が是と出る筈がない。実に醜い穢れた魂。此れならばまだ人喰らいの捷疾鬼のほうが清らなる魂を持っていよう。  アア、此れをわたしがトラジェディなどと表現する陳腐でつまらない莫迦でないことはここに書かねばならない。莫迦に違いはないが、そこまで無益な莫迦でないことを自負している。其れに、此処までのお噺は寧ろコメディと称されても善い筈である。お笑い話だと云いたいのだ。狂人と指差されることも顰め面の様な笑いも決してわたしを貶めたりなどしない、戯けには笑う者が必要だ。唯わたしが恐れるのは哀れみ、憐憫、尊敬。尤も、嘗てのわたしがいちばん欲していた物であるが、今は却って恐ろしい。恐怖だ。お道化が過ぎて仕舞った代償であると考える。諸君、諸君の中にも随分と頭脳明晰な者が居りましょう、天才と云う者が居りましょう。わたしは怖くて怖くて堪らない。尊敬に値する者と云うのは怖くて堪らない。お解りになった者も居りましょう、笑えや笑え。わたしは先に尊敬を恐怖と云った、嘘ではない。だが同時に嘗てより酷く憧れる物でもある。だからこそ恐れているのだ。憧憬、この言葉すら陳腐だと云い捨てられそうな程、憧れる。可笑しい、可笑しい。喜劇的!  更にお解りとあらば、今迄のわたしの話さえ道化だと、領解した者も居るやもしれぬ。つくづく人と云うのは恐ろしい。感服する。嗚呼、わたしは唯、自己顕示欲と認めて欲しさにお道化で在り続けるのだ。生きる意味など其処に在りゃしない、オントロギーは喪われたまま。そんな不条理をいちばん泣いたのはわたしではないか。悲劇、悲劇。トラジェディに己惚れるまま。
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