冬、微熱。

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 かちゃりと音を立て受話器を置くと、隣から「引くね」と低い声が上がった。 「どういう意味よ」  私は唇を尖らせて声の主を見た。 「毎日顔を突き合わせてる訳でもないのに、口紅の色が分かるって、引く」  苦々しく眉間にシワを寄せるのは私の同僚、加納龍太郎だ。切れ長の一重にノンフレームの眼鏡が冷たく光っている。 「良いじゃない。毎日顔を突き合わせて気付かないっていうより、よっぽど女心が分かってるってもんだわ」 「今日の口紅は赤いんだね、ピアスが違うね……ってストーカー一歩手前だぜ。女心が分かってるんならそもそも離婚なんてしないだろ」  私はべぇと舌を出してその話を打ち切った。室長はバツイチなのだ。奥さんだった人はとても綺麗な人だったと聞いている。なんで別れてしまったかは知らないけれど、きっと奥さんが浮気をしてしまったとか、そういう理由に違いない。だって室長はとっても良い人だもの。 「加納、ちょっと」  件の室長からの声掛けに、加納はハイと返事をして立ち上がった。 「なんでしょう?」  室長の席に向かい歩き出した加納の背中にもう一度舌を出す。 (室長に爪の垢でも飲ませてもらいなさいよねっ)  私はぷんすこと鼻息を荒くしながら、パソコンの電源を入れた。
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