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うらめしや
額に浮いた汗が頬を伝ってぽたぽた落ちる。セミの大合唱が聞こえる中、秋山等はある男の家を訪ねていた。
しかし、先程からしつこくインターホンを押しているが一向にチャイム音はならない。返事もない。留守なのだろうか。しかし秋山には簡単には帰れない理由があった。
秋山には今年で八歳になる、歩美という娘がいた。都内の私立小学校に毎朝電車で通っている、体は小さいが元気で活発な自慢の娘だ。
二日前、深刻な顔をした妻から、歩美が度々知らない人の家に行っている、しかもその家には若い男が一人で住んでいるらしく、そんなところに一人で行っているなんてひどく心配だという話を聞かされた。歩美にそのことを詳しく聞いてみると
「幽霊のお兄さんが住んでいる」
という旨の意味不明な答えが返ってきた。それがどういった意味であれ不審なことは確かだし、父親として幼い愛娘が一人でそんなところに行っているのを放っておけるはずがなかった。
それで歩美の話のとおり、小学校の隣の坂を下り、少し路地に入ったあたりにある小さな一軒家にきているのだ。
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