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秋山はこの家までは車で来ていた。十年ほど前に、現在の妻である彼女にいい格好をするために、随分無理をして買った、自慢の真っ赤なスポーツカーだった。そろそろ暑さに耐え兼ねて、家の前に路駐したその車の中で家主が出てくるのを待とうかとも考えていた。
家は、二階建ての一軒家だが敷地は小さめだ。しかし、ずっと昔からそこにあるかのような風体で佇んでいて、どことなく不気味なオーラを放っているような気がした。その周りには、背の高い雑草がびっしり生い茂っており、錆びた自転車が一台駐められていた。家の壁には伸び放題になっている何かの蔦が絡んでいる。
ふと、二階の窓から何かの気配を感じて顔を上げた。窓が開いていて、カーテンが揺れていた。到着した時に窓は開いていたか?と自問したが、答えは出なかった。しかし、窓が開いているということは家に人がいる可能性が高い。車に戻るのはやめて、もう少し粘ってみようか。
首筋にむずかゆさを感じた秋山は自分の右手でパチンと叩いた。雑草のせいか蚊が多くてたまらない。仕留め損ねたのか、右手には何の痕跡もなく、耳元でブーンというひどく不快な羽音がした。
しびれを切らした彼は、扉を拳で強く叩く。
「あの、誰かいらっしゃらないんですか」
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