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苛立ちを露わにしながらそういうと、ポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭った。着ているTシャツが汗で濡れ、肌に張り付き、彼の小太りな体が強調されていた。もっと汗の目立たないような色のTシャツを着てくればよかった、と苛立ちの中で秋山は考えた。
その時だった。
沈黙を続けていたドアノブが下がった。やっと人が出てきたのか、という怒りと安堵の両方の意味を含んだ感情が浮かぶ。しかしドアは開かなかった。下がったドアノブはゆっくりと上り、再び下がる。段々と激しさを増し、ガチャガチャと激しい音を立てて何度も動く。それに驚いた秋山は腰を低くして、身構えたようなポーズで後ずさった。しばらくするとドアノブの動きがピタリと止まった。次の瞬間、新聞受けが開き、ゆるゆると白い煙が漏れるように出てきた。
火事か何かかと思い込んだ秋山はさらに動揺した。しかしそれはゆったりと噴出し、そのまま彼の足元に到達する。これがもしボヤ騒ぎで発生している煙であれば足元でなく上に上にと登っていくはずだ。だとしたらこれは、一体何なのだ。
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