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突然現れた幽霊はそう言って細い目をさらに細め、照れくさそうに頭を掻いた。服装こそ幽霊であったが、白装束からは少し痩せた足が二本伸びていたし、体が透けているわけでもない。暗い雰囲気もない。むしろ話し方は穏やかで明るく、好青年のようにも感じられる。無論、その見た目や先ほどの怪現象などの除けばだが。
しかし、その幽霊のふざけた態度を見て、恐怖によって収まっていた秋山の苛立ちは再び膨らむ。
「な、なんの真似だ!」
秋山は声を荒らげ幽霊に詰め寄る。彼の肌は近くで見ても青白かったが、しっかり血の通った人間だった。
「唐突ですね。なんの真似って幽霊ですけど、見てもらってわかりませんかね、ショックです」
飯塚と名乗る自称幽霊は淡々と、秋山の質問からは随分的の外れた答えを返す。そしてアピールするように胸の前でだらりと両手を下げ、ひとつ咳払いをして喉を整えると、秋山の顔を覗き込み、1オクターブほど低い震わせた声で、
「うらめし……」
「違う違う、それはわかってる、聞きたいことは数え切れないほどあるが…まず、さっきのあれは一体なんだ」
秋山は言葉を選びながら、自分を落ち着けるようにゆっくりと整理のつかない感情を目の前の血の通った幽霊に伝えていく。
「さっきのあれと言いますと、ドアノブと新聞受けの…でしょうか。当方幽霊ですから。あれはそういう演出です。映画やゲームなんかを参考にした、セルフ・プロデュースです。どうでしょう、少しは涼しくなりましたか?」
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