願い

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願い

 その声はあまりにも突然だった。 「――貴方はだぁれ?」  山の木々が風に揺られて立てる葉擦れの音とは聞き間違えようもない、高く澄んだ女性の――だが聞き覚えはない声に、白弥は振り返った。彼にしては非常に珍しい驚きの表情で。  彼がいるのは麓に小さいながらも豊かな里が広がる小山の頂上、大きな楠の太い枝の上。  しかも彼は自力で登った訳ではない。  何十年、何百年前からそこに立っているのか、その楠の大きさ太さは他のそれとは比べ物にならないほど見事なもので、いくら身軽でも筋肉隆々でも、人間に登れるようなものではないのだ。  ――そう、白弥は人ではなかった。
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